誰もが知りたい肥満の法則
今日は女性なら知っておきたい肥満の法則について紹介します。
この法則については
ゲーリートーベス著「ヒトはなぜ太るのかーそして、どうすればいいのかー」を参考にしました。
世界保健機構(WHO)は
「肥満と過体重の根本的な原因は摂取したカロリーと消費したカロリーのエネルギー的不均衡である」
といっています。
つまり、消費する以上のエネルギーを摂取すれば肥満になり、摂取する以上のエネルギーを消費すれば痩せることになります。
そこで、肥満の原因は過食か運動不足と言われています。
でも・・・・
この説を信じてもいいのでしょうか?
みなさんはどう思いますか?
「栄養の矛盾ー発展途上国における低体重と肥満ー」という論文を2005年の「The New England Journal of Medicine」発表したジョンズ・ホプキンス大学のベンジャミン・カバレロは、ブラジル・サンパウロのスラム街にある診療所で慢性低栄養の典型的症状を示す栄養不足の幼児を抱く母親の多くが肥満であることを指摘し、「低栄養を解決する手段と肥満予防の手段は相反する。私たちはどうすればいいのだろうか?」と記しています。
しかし、低栄養と肥満が共存する社会は決して少なくありません。
多くの発展途上国に普通に見られる現象であり、このことは肥満の原因が過食にあるという考え方への挑戦状でもあるのです。
こんな実験があります。
ラットの卵巣を摘出し、その後の体重と食欲、行動などを観察した実験です。
卵巣を摘出してエストロゲンを除去されたラットは大食漢になって瞬く間に肥満になりました。この実験から、卵巣を摘出すると過食になり、その結果肥満になったということができます。しかし、この実験には続きがあるのです。
同じように卵巣を摘出したラットに厳格な食事制限を行ったのです。その結果、食事制限したラットも食事制限しないラットと同じように肥満になったのです。食事制限したラットはほとんど動かなくなり、食物を食べる時にだけわずかなエネルギーを使っていました。この2番目の実験結果だけを見ると運動不足が肥満の原因とも言えます。
しかし、2つの実験結果からは肥満の原因は過食と運動不足というこれまでの考え方とは異なることが見えてきます。
つまり、エストロゲンがなくなったことで脂肪組織に調節障害が起こり、脂肪組織は血中からエネルギーを必要以上に吸収して肥満し、そのエネルギーを補うために無制限にえさを与えたラットは過食になり、食事制限されたラットは消費エネルギーを少なくするために動かなくなったと考えることができるのです。実際、エストロゲンが脂肪蓄積に深く関与していることが明らかになっています。
つまり、ラットは過食で太ったのではなく脂肪組織が必要以上にエネルギーを蓄えるために過食にならざるを得なかったのです。
このような脂肪組織における調節障害は私たちの体でも起こっている可能性があるのです。
ビルレンスの法則について
感染症を引き起こす主な病原体は細菌、真菌(カビ)、ウイルスです。
これらの病原体の毒性・毒力を表す言葉を
「ビルレンスvirulence」
といいます。
ビルレンスの強度の違いを示す例としては、腸チフスを引き起こすチフス菌と胃腸炎(食中毒)を引き起こすサルモネラ・エンテリカに分類されますが、チフス菌のほうがビルレンスは強く、重症化しやすいことが知られています。
こうしたビルレンスの強弱を知って不思議に思うのは
「ビルレンスが強すぎると、宿主が死んでしまい結果的に感染した病原体にとって利益にならないのではないか?」
ということです。
これを解明する手がかりとなるのが、オーストラリアのウサギの話です。
オーストラリアにはもともとウサギはおらず、ヨーロッパからの入植者とともに持ち込まれました。
そのウサギがオーストラリア全土に広がり農作物に被害を与え始めたため、1950年、駆除のためにビルレンスの非常に強い、致死率99%以上のミクソーマウイルス(粘液腫ウイルス)が人為的にウサギたちに導入されました。その結果、ウサギの個体数は一年で激減します。しかし、導入から数年後、ウサギの体内のミクソーマウイルスのビルレンスは大幅に低下し、致死率50%程度の毒性クラスになっていたのです。
このように宿主に感染後、ビルレンスの強弱は変わることがあります。そして、ミクソーマウイルスに関する詳しい解析によると、その基本増殖率は中間のビルレンスで最大となり、安定した平衡状態になっていたのです。
このことから、ビルレンスが強すぎるのは確かに宿主を早く殺しすぎるので病原体にとっては不利なのですが、ビルレンスが弱すぎるのもウサギの体内で免疫系との戦いに破れてしまい好ましくないため、自らbのビルレンスを適度に弱めて子孫を効率よく繁殖させる戦略をとったと考えられています。また逆に、最初はビルレンスが弱かった病原体がしだいに強くなっていく例もあるようです。
興味深いことに、中世ヨーロッパで黒死病として流行したペスト菌は遺伝子的には過去600年以上の間、大きく変化していないことが明らかになっています。
変化が遅い理由の一つとして、ペスト菌は世界にエルシニア・ペスティスの一系統しか存在せず、菌が直線的にしか進化できないためと考えられています。
このように、免疫系と病原体のせめぎあいは様々な様相を呈しながら、ひそやかに、あるいはダイナミックに進行しているのです。
クマムシの法則
今回は新潮社から出版している堀川大樹著「クマムシ博士の最強動物学講座ー私が愛した生きものたち」を読んで見つけたクマムシの法則について紹介します。
クマムシは体調が0.1~1.0mmで、4対の肢をもつ小さな生き物です。
ムシという名前が付いていますが昆虫ではありません。
昆虫は節足動物門に属していますが、クマムシは緩歩動物門に位置づけられています。
頭部には光を感じると考えられている小さな目(眼点)があり、口は丸く脳もあります。
肢の先には鋭い爪があって、水の中をクマのように緩徐にノシノシと歩きます。
現在、約1000種類のクマムシがみつかっており、種類によって住む環境が異なっています。海や山、熱帯雨林、何曲や北極にも棲み、身近な所では道端の乾涸びた苔の中にも棲んでいます。
近年、この小さな生き物が注目されているのは驚異的な生命力をもっているためです。
全てのクマムシは活動するために自分の周りに水が必要です。その意味でクマムシは水棲動物といえます。しかし、陸に棲むクマムシは水がなくても生き延びることができるのです。実際、100年以上前に作成した苔の乾燥標本を水に戻したところ、苔に付着していたくマムシが歩き出したことが18世紀初頭に報告されており、それが自然発生説の根拠にもなっています。
では、一体、水がまったくない苔の乾燥標本の中でクマムシはどのように生き延びたのでしょうか?
クマムシは周囲から水がなくなると体の中から水分が抜け、からからに乾燥して「乾眠」と呼ばれる仮死状態になります。
そして、再び水を得ると復活するのです。
乾眠状態のクマムシは想像を絶する耐久性を持っています。マイナス273度の低温、プラス100度の高温、ヒトの致死量の約100倍に相当する線量の放射線、アルコールなどの有機溶媒、紫外線、水深1万mの75倍に相当する圧力、真空状態など、さまざまな極限ストレスに耐えられるのです。実際、宇宙空間に10日間さらされた乾眠状態のクマムシの一部が地球に戻った後に復活したことが報告されています。
クマムシが乾眠状態になっても生き延びられる確かなメカニズムはまだ明らかにはなっていませんが、取れはロースという物質が関与している可能性が示唆されています。
トレハロースは糖類の一種でクマムシと同様に乾眠能力をもつシーエレガンスやアルテミア(シーモンキー)などでは、乾眠中にトレハロースを多量に蓄積することが知られています。
また、トレハロースの合成・蓄積に関する遺伝子をノックアウトするとシーエレガンスは乾眠状態に入れずに死んでしまうことが報告されています。
しかし一方で、クマムシの乾眠にはトレハロースの関与は少ないという報告もあるため、最近ではLEAたんぱく質が乾眠状態に深く関与しているのではないかと注目されているのです。
今後の研究が進んで乾眠状態のメカニズムが明らかになれば、既存の冷蔵・冷凍保存とは異なるエネルギーを必要としない常温乾燥保存技術の開発が可能になり、細胞や組織の長期保存もできるようになるかもしれません。
さらに、極限のストレスにも耐えられる秘密が明らかになれば宇宙開発や深海開発にも役立つと期待されています。
直立二足歩行の法則
腰痛は私たちの遠い祖先が直立二足歩行を始めた時から始まったといわれています。
同様に、年間約1万人が志望する窒息事故の原因や高齢者の死亡の原因の一つである誤嚥性肺炎の発症にも直立二足歩行が深く関係しています。
人は他の動物と違って「言葉」をもっています。
言葉による優れたコミニュケーションによって、ヒトは複雑な社会や高度な文明を作り出してきました。この言葉こそ直立二足歩行によって得られたものなのです。
二本足で立ち上がることで、口腔と咽頭(喉の奥の空間)が直角になり、咽頭は長く広がっていきます。
その結果、声帯から発せられる単純な音声信号を咽頭で共鳴させることができ、さらに舌や唇を複雑に動かすことで母音や音節を区切った複雑で豊かな音声信号、つまり言葉を発することができるようになったのです。
一方、咽頭が短くて狭く、口腔とほぼ水平につながるチンパンジーにはヒトのような複雑な音声は出ません。
ヒトの乳児もチンパンジーと同様に咽頭が狭く短いため複雑な音声は出せないのです。
一方、ヒトもチンパンジーも気道と食堂は喉の置くで交差しています。
しかし、チンパンジーじゃ咽頭が狭く短いため、水や液状の食べ物は呼吸をするために開いている気道の周囲をすり抜けて食道に入っていきます。
チンパンジーと同様な咽頭構造をもつ乳幼児もミルクが気道の両側をすり抜けて食道に入るので、鼻で呼吸しながらミルクを飲むことができ、大人のように気道にミルクが入ってむせ返ることはないのです。
ところが、生後4~6ヶ月以降になん語(意味を持たない声)を発声するようになると、気道の蓋である喉頭蓋の位置が下がり始め、気道と食道の共有スペースである咽頭が長く広がってくるため、ミルクの嚥下と呼吸の両立ができなくなります。
赤ちゃんがお餅やゼリーなどで窒息する事故が多いのは、乳児の時に同時にできた呼吸と飲食ができなくなるからです。
乳児期を過ぎると、飲食時には水や食物が気道に入ることを防ぐために咽頭蓋が反射的に閉じて気道に食物が入ることを防いでいます。
しかし、老人になると反射が遅くなっていきます。それが、老人の窒息事故や誤嚥性肺炎の原因となっているのです。
このように、ヒトは直立二足歩行によって長く広い咽頭を得たことで言葉をしゃべることができるようになったのですが、そのことが窒息事故や誤嚥性肺炎の原因にもなっているのです。
参考文献「進化からみた病気ーダーウィン医学のすすめ」