薬剤師が知っておきたい世の中の法則

薬剤師が知っておきたい世の中の法則について紹介します。

ミトコンドリアの法則について

過去に、「パラサイト・イヴ」という小説で話題になった

ミトコンドリアの最近分かったトピックスを紹介します。

 

生き物のエネルギー源となるのは

アデノシン三リン酸(ATP)という物質です。

このATPを生成する方法には2種類あります。

一つは、解糖系、もう一つはクエン酸回路(TCA回路)です。

 

解糖系では酸素を使わずにグルコース1分子から2分子のATPを作り出します。

一方、TCA回路では酸素を使ってグルコース1分子から30~38分子(臓器によって異なる)のATPを生成します。

つまり、TCA回路は解糖系の十数倍の効率で安定的にエネルギー源をつくり出すことができます。

TCA回路による効率のよいATP生成は細胞内にあるミトコンドリアで行われていますが、このミトコンドリアの出現こそ、動物、植物が誕生するきっかけでした。

生命の基本単位は細胞で、細胞には原核細胞と真核細胞の2種類があります。

前者は細菌の細胞、後者はヒトを含む動植物の細胞で、ミトコンドリアは真核細胞にのみ存在します。つまり、細菌と動植物の違いはミトコンドリアの有無ともいえるのです。

地球に生命が誕生したのは、今から40億年前といわれています。

それからしばらくして原核細胞が生まれ、さらにそれから数億年後に真核細胞が誕生します。しかし、当時の真核細胞にはミトコンドリアはまだなく、酸素を使わない解糖系でATPを生成していました。その真核細胞が大きく進化したのは、今から20億年前のことです。

なんと、嫌気性の真核細胞はTCA回路で効率よくATPを生成する好気性のαプロテオ細菌を取り込んだのです。

そして、この細菌が逃げ出さないように大量の遺伝子を抜き取り、外界で生活できないようにしました。さらに、この細菌が勝手に分裂・増殖して真核細胞に刃向うのを防ぐために、分裂をコントロールする独自の装置をつくり出します。

こうして、ミトコンドリアに変わったαプロテオ細菌は、酸素を使って効率よく安定的にエネルギー源を作り出し、真核細胞は驚異的な進化と繁栄を遂げたのです。

しかし一方で、ミトコンドリアの存在がさまざまな疾患に関与していることが近年明らかになりつつあります。

実際、ミトコンドリアのDNA(mtDNA)の突然変異が、ガンと関係あることは古くから指摘されていましたが、最近、ガンの転移能獲得にmtDNAの突然変異が深く関与していることが確認されました。

また、糖尿病などの生活習慣病神経変性疾患、細胞のアポトーシスや老化にもミトコンドリアが関与していることが徐々にわかってきました。

このように、効率よくATPを賛成することで地球を覆う多様な生命の緒相を作り出す一翼を担ってきたミトコンドリアは、ATP生成以外の生命現象にも深く関与し、時には真核細胞の運命も左右しているのです。

その意味で、真核細胞におけるミトコンドリアの位置づけは、かつてリン・マーグス教授が提唱した「細胞内共生」というより「細胞内競生」と呼べるのではないでしょうか?

知れば知るほど、奥が深いミトコンドリアの研究はこれからも続きますね!