薬剤師が知っておきたい世の中の法則

薬剤師が知っておきたい世の中の法則について紹介します。

クマムシの法則

今回は新潮社から出版している堀川大樹著「クマムシ博士の最強動物学講座ー私が愛した生きものたち」を読んで見つけたクマムシの法則について紹介します。

 

クマムシは体調が0.1~1.0mmで、4対の肢をもつ小さな生き物です。

ムシという名前が付いていますが昆虫ではありません。

昆虫は節足動物門に属していますが、クマムシは緩歩動物門に位置づけられています。

頭部には光を感じると考えられている小さな目(眼点)があり、口は丸く脳もあります。

肢の先には鋭い爪があって、水の中をクマのように緩徐にノシノシと歩きます。

現在、約1000種類のクマムシがみつかっており、種類によって住む環境が異なっています。海や山、熱帯雨林、何曲や北極にも棲み、身近な所では道端の乾涸びた苔の中にも棲んでいます。

近年、この小さな生き物が注目されているのは驚異的な生命力をもっているためです。

全てのクマムシは活動するために自分の周りに水が必要です。その意味でクマムシは水棲動物といえます。しかし、陸に棲むクマムシは水がなくても生き延びることができるのです。実際、100年以上前に作成した苔の乾燥標本を水に戻したところ、苔に付着していたくマムシが歩き出したことが18世紀初頭に報告されており、それが自然発生説の根拠にもなっています。

 

では、一体、水がまったくない苔の乾燥標本の中でクマムシはどのように生き延びたのでしょうか?

 

クマムシは周囲から水がなくなると体の中から水分が抜け、からからに乾燥して「乾眠」と呼ばれる仮死状態になります。

そして、再び水を得ると復活するのです。

乾眠状態のクマムシは想像を絶する耐久性を持っています。マイナス273度の低温、プラス100度の高温、ヒトの致死量の約100倍に相当する線量の放射線、アルコールなどの有機溶媒、紫外線、水深1万mの75倍に相当する圧力、真空状態など、さまざまな極限ストレスに耐えられるのです。実際、宇宙空間に10日間さらされた乾眠状態のクマムシの一部が地球に戻った後に復活したことが報告されています。

クマムシが乾眠状態になっても生き延びられる確かなメカニズムはまだ明らかにはなっていませんが、取れはロースという物質が関与している可能性が示唆されています。

トレハロースは糖類の一種でクマムシと同様に乾眠能力をもつシーエレガンスやアルテミアシーモンキー)などでは、乾眠中にトレハロースを多量に蓄積することが知られています。

また、トレハロースの合成・蓄積に関する遺伝子をノックアウトするとシーエレガンスは乾眠状態に入れずに死んでしまうことが報告されています。

しかし一方で、クマムシの乾眠にはトレハロースの関与は少ないという報告もあるため、最近ではLEAたんぱく質が乾眠状態に深く関与しているのではないかと注目されているのです。

今後の研究が進んで乾眠状態のメカニズムが明らかになれば、既存の冷蔵・冷凍保存とは異なるエネルギーを必要としない常温乾燥保存技術の開発が可能になり、細胞や組織の長期保存もできるようになるかもしれません。

さらに、極限のストレスにも耐えられる秘密が明らかになれば宇宙開発や深海開発にも役立つと期待されています。