直立二足歩行の法則
腰痛は私たちの遠い祖先が直立二足歩行を始めた時から始まったといわれています。
同様に、年間約1万人が志望する窒息事故の原因や高齢者の死亡の原因の一つである誤嚥性肺炎の発症にも直立二足歩行が深く関係しています。
人は他の動物と違って「言葉」をもっています。
言葉による優れたコミニュケーションによって、ヒトは複雑な社会や高度な文明を作り出してきました。この言葉こそ直立二足歩行によって得られたものなのです。
二本足で立ち上がることで、口腔と咽頭(喉の奥の空間)が直角になり、咽頭は長く広がっていきます。
その結果、声帯から発せられる単純な音声信号を咽頭で共鳴させることができ、さらに舌や唇を複雑に動かすことで母音や音節を区切った複雑で豊かな音声信号、つまり言葉を発することができるようになったのです。
一方、咽頭が短くて狭く、口腔とほぼ水平につながるチンパンジーにはヒトのような複雑な音声は出ません。
ヒトの乳児もチンパンジーと同様に咽頭が狭く短いため複雑な音声は出せないのです。
一方、ヒトもチンパンジーも気道と食堂は喉の置くで交差しています。
しかし、チンパンジーじゃ咽頭が狭く短いため、水や液状の食べ物は呼吸をするために開いている気道の周囲をすり抜けて食道に入っていきます。
チンパンジーと同様な咽頭構造をもつ乳幼児もミルクが気道の両側をすり抜けて食道に入るので、鼻で呼吸しながらミルクを飲むことができ、大人のように気道にミルクが入ってむせ返ることはないのです。
ところが、生後4~6ヶ月以降になん語(意味を持たない声)を発声するようになると、気道の蓋である喉頭蓋の位置が下がり始め、気道と食道の共有スペースである咽頭が長く広がってくるため、ミルクの嚥下と呼吸の両立ができなくなります。
赤ちゃんがお餅やゼリーなどで窒息する事故が多いのは、乳児の時に同時にできた呼吸と飲食ができなくなるからです。
乳児期を過ぎると、飲食時には水や食物が気道に入ることを防ぐために咽頭蓋が反射的に閉じて気道に食物が入ることを防いでいます。
しかし、老人になると反射が遅くなっていきます。それが、老人の窒息事故や誤嚥性肺炎の原因となっているのです。
このように、ヒトは直立二足歩行によって長く広い咽頭を得たことで言葉をしゃべることができるようになったのですが、そのことが窒息事故や誤嚥性肺炎の原因にもなっているのです。
参考文献「進化からみた病気ーダーウィン医学のすすめ」