薬剤師が知っておきたい世の中の法則

薬剤師が知っておきたい世の中の法則について紹介します。

家族歴の法則

今回は家族歴の法則について紹介します。

この法則によれば・・・

母親が胃がんだった女性の場合、胃がん死亡リスクは5.4倍になります。

 

例えば・・・

 

ある男性(52歳)が十二指腸潰瘍で緊急手術を受けました。

のちに、その男性の兄、父親も十二指腸潰瘍の既往歴があったそうです。

ちなみに、男性の消化管からヘリコバクターピロリ菌は検出されませんでした。

家族歴は消化性潰瘍のリスク因子の一つに挙げられていますが、生活習慣病や成人病(ガン、心疾患、脳血管疾患など)において、家族歴の有無は、どの程度のリスクになるのでしょうか?

 

動脈硬化などによっておこる冠動脈疾患の場合、フラミンガム研究では両親のいずれか一人に冠動脈疾患があれば、発症リスク(年齢調整オッズ比)は男性で2.6倍、女性で2.3倍高くなることが示されています。

日本のJ-LITでも冠動脈疾患の家族歴の存在によってリスクは約3倍上昇すると報告しています。また、愛知職域コホート研究では、両親に高血圧、脂質異常症、糖尿病の病歴を有する人は当該疾患を持つ割合が高く、特に糖尿病では3.23倍という強い関連が認められました。

ガンの場合はどうでしょうか?

約11万人の日本人を追跡したJACC研究の報告をみると、胃がんの家族歴がある場合、家族歴がない人に比べ、男性では1.6倍、女性では2.4倍も胃がんで死亡しやすいことが明らかとなっています。

また、近親者の誰が胃がんの病歴を有していたかによって死亡リスクは異なり、男性では父親に胃がんがある場合は2.1倍、女性では父親の場合は2.0倍ですが、姉妹の場合は2.9倍、母親の場合は5.4倍とリスクの上昇が認められました。

約10万人の日本人を追跡したJPHC研究によると、肺がんの家族歴がある場合、男性では1.7倍、女性では2.7倍ほど発症リスクが高くなることが示されています。これは年齢、性別、居住地域、本人の喫煙状況、受動喫煙の影響を除外した数値です。

このような遺伝的要因が各種のがんにおいてどれだけ強く関与するかを調べたものとしてデンマークフィンランドスウェーデンの三カ国約4万5000組の双子を追跡した研究があります。

がんの発生率を一卵性および二卵性双生児のグループ間で比較した結果、前立せんがんの42%、大腸がんの35%、乳がんの27%は遺伝的要因で説明できるとしています。

つまり、がんの中でも前立せんがん、大腸がん、乳がんは特に遺伝的な要因が強くかかわって発症すると考えられるわけです。

冒頭の男性は家族の病歴を思い出し、早めに内視鏡検査を受けていれば手術には至らなかったでしょう。

家族歴を意識し早めに検査を受けることが重要ですね!