薬剤師が知っておきたい世の中の法則

薬剤師が知っておきたい世の中の法則について紹介します。

コミニュケーションの法則について

薬剤師にとっては、患者さんとの

コミニュケーションがとても重要です。

 

コミニュケーションは患者さんとの

信頼関係から始まります。

 

重要な薬について説明するために

薬剤師からの一方的な説明になっていませんか?

 

患者さんは本当に自分が話した説明を

理解していると思っていますか?

 

今一度、コミニュケーションについて考えてみたいと思います。

 

薬剤師だけでなく、医療にかかわる人は患者さんに対して

「この言葉なら最近、新聞やTVでよく出ているから知っているだろう」

と、思いがちでついつい医療用語を使ってしまいがちです。

 

しかし、

 

患者さんがその言葉を知っていたとしても

に理解しているとは限りません。

 

また、

 

患者さんも自分の症状や悩みを薬剤師や医療者に

どう説明すればいいのか分からない場合があります。

 

このような両者の間の溝はどこまで深く、広いと思いますか?

 

昨年、11月、日本人は欧州の人に比べて

ヘルス・リテラシー(適切な健康・医療情報を入手し活用する能力)が

足りないと報道されました。

聖路加国際大学の中山教授が実施したこの調査では、

日本人の44%が医師の説明を理解することに

「やや難しい」「とても難しい」と回答したのに対して

欧州の人々は15.3%でした。

 

日本人の約半数の人が医師の説明をよく理解できていないまま

治療を受けていることになります。

 

医療者と患者との間の良好なコミニュケーションは、

一つの方法だけで築けるものではありませんが、まず、

医療者が医療・医学用語を分かりやすく伝える必要があると思います。

 

例えば・・・

 

国立国語研究所は「病院の言葉」に対する一般の人々の

認知率や理解率を調べ、問題点の分析と改善策をまとめています。

 

それによると、

 

一般に認知率が近い「寛解」「重篤」「予後」などの言葉はそれぞれ

「病状が落ち着いて安定した状態」「症状が非常に重い状態」「見通し」

などの日常用語で言い換えることで理解できますが、

認知率は高いが理解率が低い

インスリン」「対症療法」「頓服」などの言葉は

明確かつ丁寧に説明することを推奨しています。

 

一方、

 

別の観点からコミニュケーションを図りより適切な医療に結びつけようという試みもあります。その一つが、NBM(Narrative Based Medicine)つまり

物語と対話に基づいた医療という意味です。

 

NBMでは対話を通じて「病気になった理由・経緯」、

「病気についてどのように考えているか」など、

患者固有の物語を語ってもらいます。

 

医療者はその病気の体験の物語を傾聴し

病気の背景や患者さんの抱えている問題を

社会面・経済面・心理面など様々な視点で総合的に捉え、

個々の人にあった医療を目指します。

 

また、

 

NBMは異なった複数の物語の共存や併存を許容し、対話の中から

新しい物語が想像されることを重視するのも特徴です。

NBMは医療者と患者さんの双方がともに関わることができる

「言葉」として機能します。

普遍性やデータを重視するEBMを保管するものとして、

総合診療医を中心にこのNBMを取り入れる動きが広まりつつあるようです。

 

このNBMを知って感じたことは、

簡単に言うと相手の立場になって相手の人生を疑似体験する

イマジネーションが必要ということです。

 

あの世界の本田宗一郎も言っていた言葉に

「人の心に棲む」という言葉を思い出します。

 

つまり、

 

相手の立場にたって考えるイマジネーションをもてる

薬剤師でなければ、いくら知識を並べても患者さんにとっては

まったくの意味のない言葉になってしまいます。

 

薬剤師はついつい法則、規則、知識にこだわる傾向があり

その知識を生かす相手の存在を無視してしまいがちですが、

このコミニュケーションの法則を知って今一度

患者さんへのイマジネーションを働かせてはいかがでしょうか??

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

論理的思考の法則について

今回は論理的思考の法則について紹介します。

今は、ネットの普及によって誰もが簡単に情報を得られる

便利な時代になりました。

でも、情報の量は増えても、その質となると

玉石混交といえます。

情報を集めたとしても中には詐欺的な詭弁も

含まれているので、論理的にこの情報が正しいのかどうかを

見極めることは重要です。

そこで、安易な情報に振り回されないようにするためにも

今回の論理的思考の法則を覚えて欲しいです。

 

論理的思考を身につけるために持ち出される問題があります。

 

それは、こちら!

↓↓↓

問題

表にA、K、4、5と書かれた4枚のカードがあります。

どのカードも片面にはアルファベット、もう片面には数字が

書かれています。この時、

「母音の裏には必ず偶数が書かれている」というルールが

成り立っているかどうかを確かめるのに最低何枚のカードをめくる必要があるか?

 

この問題はウェイソンの選択課題と言われています。

「AならばB」が真である場合、その対偶にある

「BでないならAでない」だけが真で、

逆の「BならばAである」とか

裏の「AでないならBでない」は嘘になります。

 

上の問題で示された命題は

「片面が母音ならば、その裏は偶数である」

なので、

その対偶は

「偶数でないなら(=奇数であれば)、その裏は母音ではない(=子音である)」

となります。

 

したがって、

 

2つの真の条件である

「片面が母音A」と「片面が奇数5」を調べればいいことになります。

 

「母音の裏には必ず偶数が書かれている」というルールが成り立っているかどうか確かめるのに、間違って選んでしまいがちなカードは4です。

 

このルールは

「偶数の裏には必ず母音」と違い、

「母音の裏だけに偶数」でもありません。

 

つまり、

 

4の裏は母音でも子音でもいいのです。

 

同様に、

 

片面が子音の場合、その裏は奇数でも偶数でもいいので

Kのカードの裏をみる必要はありません。

 

詭弁について調べてみると、その種類の多さに驚きますが、

代表的なものに「未知論証(悪魔の証明)」があります。

 

「Aが存在しない(起こらない)ことは証明できない。ゆえにAは存在する(起こる)」と主張する詭弁です。

 

つまり、もっと具体的に言うと

「宇宙人がいないという証拠はない。ゆえに宇宙人はいる」という場合です。

 

「ある」ことを証明するためには1例を挙げれば済みますが、

「ない」ことを証明するためには、世の中すべてを

調べ尽くさなければならないので事実上不可能です。

 

Aは存在しないという証拠がない場合、

「Aは存在するかもしれないし、存在しないかもしれない」とするのが

正しい倫理の帰結です。

 

相手の意見を正しく引用せず、捻じ曲げて引用し、それに反論する

「ストローマン(わら人形論法)」

数多くの事例の中から自らの論証に有利な事例のみを並べ立てる

「チェリーピッキング」も頻繁に見られる詭弁なので注意してくださいね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミトコンドリアの法則について

過去に、「パラサイト・イヴ」という小説で話題になった

ミトコンドリアの最近分かったトピックスを紹介します。

 

生き物のエネルギー源となるのは

アデノシン三リン酸(ATP)という物質です。

このATPを生成する方法には2種類あります。

一つは、解糖系、もう一つはクエン酸回路(TCA回路)です。

 

解糖系では酸素を使わずにグルコース1分子から2分子のATPを作り出します。

一方、TCA回路では酸素を使ってグルコース1分子から30~38分子(臓器によって異なる)のATPを生成します。

つまり、TCA回路は解糖系の十数倍の効率で安定的にエネルギー源をつくり出すことができます。

TCA回路による効率のよいATP生成は細胞内にあるミトコンドリアで行われていますが、このミトコンドリアの出現こそ、動物、植物が誕生するきっかけでした。

生命の基本単位は細胞で、細胞には原核細胞と真核細胞の2種類があります。

前者は細菌の細胞、後者はヒトを含む動植物の細胞で、ミトコンドリアは真核細胞にのみ存在します。つまり、細菌と動植物の違いはミトコンドリアの有無ともいえるのです。

地球に生命が誕生したのは、今から40億年前といわれています。

それからしばらくして原核細胞が生まれ、さらにそれから数億年後に真核細胞が誕生します。しかし、当時の真核細胞にはミトコンドリアはまだなく、酸素を使わない解糖系でATPを生成していました。その真核細胞が大きく進化したのは、今から20億年前のことです。

なんと、嫌気性の真核細胞はTCA回路で効率よくATPを生成する好気性のαプロテオ細菌を取り込んだのです。

そして、この細菌が逃げ出さないように大量の遺伝子を抜き取り、外界で生活できないようにしました。さらに、この細菌が勝手に分裂・増殖して真核細胞に刃向うのを防ぐために、分裂をコントロールする独自の装置をつくり出します。

こうして、ミトコンドリアに変わったαプロテオ細菌は、酸素を使って効率よく安定的にエネルギー源を作り出し、真核細胞は驚異的な進化と繁栄を遂げたのです。

しかし一方で、ミトコンドリアの存在がさまざまな疾患に関与していることが近年明らかになりつつあります。

実際、ミトコンドリアのDNA(mtDNA)の突然変異が、ガンと関係あることは古くから指摘されていましたが、最近、ガンの転移能獲得にmtDNAの突然変異が深く関与していることが確認されました。

また、糖尿病などの生活習慣病神経変性疾患、細胞のアポトーシスや老化にもミトコンドリアが関与していることが徐々にわかってきました。

このように、効率よくATPを賛成することで地球を覆う多様な生命の緒相を作り出す一翼を担ってきたミトコンドリアは、ATP生成以外の生命現象にも深く関与し、時には真核細胞の運命も左右しているのです。

その意味で、真核細胞におけるミトコンドリアの位置づけは、かつてリン・マーグス教授が提唱した「細胞内共生」というより「細胞内競生」と呼べるのではないでしょうか?

知れば知るほど、奥が深いミトコンドリアの研究はこれからも続きますね!

雑種の法則について

突然ですが・・・

ゾース、ピズリー、ホルフィン、カマって何の名前だか分かりますか?

 

それでは、

 

ロバ、ライオン、シマウマだったら??

 

バがロバとウマ、ライガーがライオンとトラの雑種のように、

ゾースはシマウマとウマ、ピズリーはホッキョクグマとグリズリー、

ホルフィンはオキゴンドウとハンドウイルカ、カマはラクダとリャマの雑種になります。

 

これらの雑種はどれも現存し、自然界で誕生したものもあれば、

飼育動物のあいだで繁殖されたものもあります。

 

こうした雑種がヒトの進化にも関与しているという仮説があります。

 

一般的にヒトとチンパンジーは約700万年前頃(800万年前~600万年前)に共通の祖先から分かれたといわれています。

実際、米国のニック・パターソンらはヒトとチンパンジーのDNAを比較し、その違いを時間換算してヒトとチンパンジーは平均750万年の違いがある事が明らかになっています。ところが、不思議なことにX染色体は120万年しか違いがなかったのです。

この事実は何を意味しているのでしょうか?

ニック・パターソンらは雑種の生殖能力に注目します。

雑種の生殖能力は性によって異なり。異形配偶子をもつ性(ヒトではX染色体とY染色体をもつ男性)は精子をつくれない可能性が非常に高いのです。(ホールデンの法則)

そのため、ラバ同士では繁殖できませんが、雌のラバはロバやウマの子供を産めることが知られています。

そこで、ニック・パターソンらはこう考えました。

ヒトとチンパンジーが共通の祖先から分かれて何百万年か経った時、両者は交雑するようになってのではないか?

ホールデンの法則によれば、ヒトとチンパンジーの雑種(仮にヒューマンジーと呼びます)の雄には生殖能力はないかもしれませんが、ヒューマンジーの雌はチンパンジーやヒトと交雑できます。

たとえば、ニューマンジーの雌がチンパンジーとの子を妊娠し、雌が産まれればその子は2本のX染色体を受け継ぐことになります。

一方、雄が産まれてもチンパンジーのY染色体とX染色体を受け継いでいれば、チンパンジーだけでなく、ヒトやヒューマンジーとも生殖能力の問題を抱えることなく交雑することができます。

こうして、チンパンジーのX染色体がヒトに入り込むことで、両者のX染色体だけが遺伝的に非常に近くなったとニック・パターソンらは考えました。

ヒトとチンパンジーの雑種が存在したというこの仮説は2006年6月のネイチャー誌に発表されました。当然、多くの反論が出ていますが、この仮説以外にX染色体にまつわる謎を説明する論理はまだありません。

ところで、染色体に関してはこのほかにも興味深いことが明らかになっています。

それはヒトの2番染色体はチンパンジーの12番と13番の染色体が融合したものであることです。もしかすると、ヒトがチンパンジーとの共通の祖先から分かれるきっかけは、この染色体お融合と密接な関係があるのかもしれません。

ゴリラやチンパンジーといった大型類人猿の染色体は48本ですが、ヒトだけ46本と2本少ないことが、おそらくヒトと他の大型類人猿の違いに関係しているのだと思います。ヒトとチンパンジーは99%の遺伝子が一致しているのにもかかわらず、似ても似つかぬ存在である不思議には、まだまだ多くの謎があります。

 

参考にした本は、

「チンパンジーはなぜヒトにならなかったのか」というタイトルで

講談社から出版しています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

種の保存の法則について

今回は種の保存の法則についてお話したいと思います。

 

種の保存は、あらゆる生き物に課された大切なテーマです。

菌も原虫も。イヌもネコも、私たち人間も、

そのテーマをより確かなものにするために

進化してきたといっても過言ではないです。

だからこそ、生き物は種を保存するために、

さまざまな戦略を駆使しています。

 

トキソプラズマは、ほとんどすべての恒温動物に感染する

寄生虫です。

通常は帰省している動物の細胞内で無性生殖によって増えていきます。

しかし、有性生殖によって新しい卵(オーシスト;接合子嚢)を

作れるのはネコの細胞の中だけです。

つまり、トキソプラズマはネコからネコに移動しないと子孫を増やしていけないのです。

 

では、

 

トキソプラズマはどのようにネコからネコへ移動するのか?」

 

まず、トキソプラズマの卵はネコの糞に混じって排泄されます。

にできている卵は過酷な環境下でも最長18ヶ月間は行き続けるといわれています。

その間にネズミや鳥、その他の動物がこの卵を食べるとトキソプラズマに感染し、

感染した動物の生肉を食べた動物も感染します。

人間の場合、十分に加熱していない肉や水洗いが不十分な生野菜を食べた時、

あるいはネコの糞を処理した際に感染するといわれています。

動物の体内に入ったトキソプラズマは血流に乗って全身にいきわたり、筋肉細胞や脳細胞の中にもぐりこみます。

しかしこのままでは、なかなかネコの体内にたどりつきません。

そこで、トキソプラズマはネコの大好物であるネズミを利用するのです。

ネズミの筋肉細胞や脳細胞に入ったトキソプラズマはネズミを徐々に変えていきます。まず、ネズミは太って動きが鈍くなります。

そして、捕食者であるネコを怖がらなくなるのです。

さらに、トキソプラズマに感染したネズミはネコがマーキングした場所を避けるどころか、その臭いに引き寄せられていくことが多くの実験で明らかになっています。

つまり、トキソプラズマ感染ネズミは、キャットフードと化していくのです。

こうして、トキソプラズマは新たなネコの細胞の中で子孫を増やし続けてることができるのです。

トキソプラズマがネズミの脳を変化させるなら、私たち人間にも何かしらの影響を与えてもおかしくありません。

実際、その可能性が少しずつ明らかになっています。

このように、細菌や原虫が宿主の行動に影響を与えている可能性を示唆する報告は少なくなく、最近ではある種の性感染症がヒトの性行動に影響を与えることを示唆する報告もあります。

 

今回参考にした本は

シャロン・モアレム、ジョナサン・プリンス著

「迷惑な進化 病気の遺伝子はどこから来たのか」NHK出版

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

科学的思考の法則について

医学や薬学の司会では大規模なランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial:RCT)はエビ伝巣レベルが高いといわれています。

ともすれば、RCTが価値の全てと考えているような批評を目にすることもあります。

自分の意見を主張するために

「RCTでのエビデンスがない」

と批判する人も少なくありません・・・

 

本当にそうなんでしょうか??

 

内科医で感染症治療が専門の岩田健太郎先生は

「RCTは微妙な問題の解決にしか役に立たない」

と指摘しています。

 

確かに、東京から名古屋まで行くのに新幹線と自転車ではどちらが早いか?

致死的な重症感染症抗生物質が必要か?

といった結果や効果がはっきりしていて疑いようのないものについてRCTは不要です。

しかし、

現在の薬物治療はとても微妙な問題を扱っているのでRCTが必要になるのです。

 

例えば・・・

 

高血圧の薬、糖尿病の薬、脂質を改善する薬などは効果があるかどうか一目瞭然でない微妙な薬です。

もちろん、高血圧の薬を飲めば血圧は下がり、糖尿病の薬を飲めばHbA1cは改善しますが、高血圧や糖尿病、脂質異常症を治療するのは脳・心血管イベントなどの合併症を予防することが目的です。

しかし、高血圧などで脳卒中心筋梗塞を起こす方は決して多くはありません。脳卒中心筋梗塞も起こさずに寿命を全うする高血圧患者さんを集めてRCTを行わないと降圧薬の微妙な効果を明らかにすることができないのです。

一般的に大規模な臨床試験は小規模な臨床試験より価値が高いと考えられています。

しかし、大規模な臨床試験とは「何万人も集めないと両群の差が明らかにならない微妙な研究」とも言えます。

本当にその薬が劇的に効くなら数十人に飲ませても効果は一目瞭然でしょう。

それが、数万人で比較しないと差が明らかにならないのは、その薬の効果が微妙だからとも考えられます。

つまり、小規模な臨床試験で効果が明らかになった薬より、大規模な臨床試験でやっと効果が認められた薬は明らかに効果が低いともいえるのです。

もちろん、臨床試験が大規模化する背景には研究成果としてのエビデンスに求められる「客観性」の水準が高くなってきたこともありますが大規模なRCTの結果が何を意味しているのかを正確に理解することはとても大切です。

RCTで得られたエビデンスを治療に生かすには、結果の解釈がポイントになります。

RCTでは治療群の効果を表す指標として、相対リスク減少率(RRR)、絶対リスク減少率(ARR)、治療必要数(NNT)の3つが用いられます。

このうち、RRRは分かり易い指標ですが実際の効果より高い治療効果があるように錯覚する場合があります。そこで、治療による恩恵を受ける人の割合を示すARR、あるいはその逆数で

「何人の患者に治療を行えば一人の生命予後を改善できるか?」

を示すNNTで結果を理解する方が実臨床に即していると言われます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家族歴の法則

今回は家族歴の法則について紹介します。

この法則によれば・・・

母親が胃がんだった女性の場合、胃がん死亡リスクは5.4倍になります。

 

例えば・・・

 

ある男性(52歳)が十二指腸潰瘍で緊急手術を受けました。

のちに、その男性の兄、父親も十二指腸潰瘍の既往歴があったそうです。

ちなみに、男性の消化管からヘリコバクターピロリ菌は検出されませんでした。

家族歴は消化性潰瘍のリスク因子の一つに挙げられていますが、生活習慣病や成人病(ガン、心疾患、脳血管疾患など)において、家族歴の有無は、どの程度のリスクになるのでしょうか?

 

動脈硬化などによっておこる冠動脈疾患の場合、フラミンガム研究では両親のいずれか一人に冠動脈疾患があれば、発症リスク(年齢調整オッズ比)は男性で2.6倍、女性で2.3倍高くなることが示されています。

日本のJ-LITでも冠動脈疾患の家族歴の存在によってリスクは約3倍上昇すると報告しています。また、愛知職域コホート研究では、両親に高血圧、脂質異常症、糖尿病の病歴を有する人は当該疾患を持つ割合が高く、特に糖尿病では3.23倍という強い関連が認められました。

ガンの場合はどうでしょうか?

約11万人の日本人を追跡したJACC研究の報告をみると、胃がんの家族歴がある場合、家族歴がない人に比べ、男性では1.6倍、女性では2.4倍も胃がんで死亡しやすいことが明らかとなっています。

また、近親者の誰が胃がんの病歴を有していたかによって死亡リスクは異なり、男性では父親に胃がんがある場合は2.1倍、女性では父親の場合は2.0倍ですが、姉妹の場合は2.9倍、母親の場合は5.4倍とリスクの上昇が認められました。

約10万人の日本人を追跡したJPHC研究によると、肺がんの家族歴がある場合、男性では1.7倍、女性では2.7倍ほど発症リスクが高くなることが示されています。これは年齢、性別、居住地域、本人の喫煙状況、受動喫煙の影響を除外した数値です。

このような遺伝的要因が各種のがんにおいてどれだけ強く関与するかを調べたものとしてデンマークフィンランドスウェーデンの三カ国約4万5000組の双子を追跡した研究があります。

がんの発生率を一卵性および二卵性双生児のグループ間で比較した結果、前立せんがんの42%、大腸がんの35%、乳がんの27%は遺伝的要因で説明できるとしています。

つまり、がんの中でも前立せんがん、大腸がん、乳がんは特に遺伝的な要因が強くかかわって発症すると考えられるわけです。

冒頭の男性は家族の病歴を思い出し、早めに内視鏡検査を受けていれば手術には至らなかったでしょう。

家族歴を意識し早めに検査を受けることが重要ですね!